浅田次郎/蒼穹の昴 | 海辺の読書記

浅田次郎/蒼穹の昴


<あらすじ>
汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう────
優れた文明を手に入れた外国勢力に狙われ、体制が崩れつつある清朝末期、貧しき糞拾いの少年・春児(チュンル)は、占い師の老婆から途方もない予言を聞く。それを信じ、科挙試験を受ける兄貴分・文秀(ウエンシウ)に連れられ、都へ上る。
春児の信じる予言、文秀の科挙試験・・・二つの夢は果たしてかなうのか?

一方、大清国の支配者である西太后は、人知れず国の行く末を憂え、自らの使命の重さを嘆いていた────
若き俊英が創る新しき時代と、旧き権力が守る中国三千年の歴史。二つの想いや野望が紫禁城に渦巻き、中華四億の命を翻弄する。
全ての夢見る人に捧げる大作宮廷ロマン。

<書評>
文庫本の背表紙にある紹介文をまとめて、多少テンションを上げて紹介させて頂いたが、この作品
を紹介しようと思うと、自然とテンションが上がってしまうようなので、ご勘弁の程を。
というのも、この作品は僕が今まで読んだ小説の中でもかなり面白い方で、「歴史小説」というジャンルに限ると、ひょっとしてこれが1番じゃないか、というくらい良いのである。

この作品は、清朝末期という時代の特異さ、その中で生きる人間な懸命な様子が壮大に描かれていて、いかにも歴史小説、という感じのスケールの大きい作品である。僕は中国史の知識など皆無だったが、浅田次郎を信じて、全四巻のこの超大作を読み始めた。よく考えるとかなり無謀な試みだったが、それでも「面白い!」と感じたからすごい。

ところで、司馬遼太郎の歴史小説などを読んで、面白い歴史小説の「条件」は一体なんなのか、と考えたときに、
・様々な立場(特に相対する立場の両極面)の人間の視点から、歴史を立体的(?)にとらえている
・その時代の特異な雰囲気、情勢などが、読んでいて伝わってくる
・登場人物それぞれの性格を書きわけ、長所も短所も、全てひっくるめて一人の人間を描いている
という点が大きいなーと思う。歴史をただの美談にせず、様々なことが詳しく書かれているほうが厚みがあり、読んでいると、まるでその時代にタイムスリップしたかのような錯覚を感じるのである。
思うに、この作品は上に挙げた要素を持ち合わせているから、たとえ歴史の知識がなくとも、その時代の空気を感じて、一気に読む事が出来るのである。


ただ、三巻~四巻の前半あたりは、少し勢いが落ちているかなと思う。二人の新聞記者が出てきて、情勢を客観的な立場から語る事で読者に解説する、という形をとっているのだが、やはりあまり客観的に書かれると、それまでの「いったいどうなるんだ!?」という好奇心がなくなるので、知識が無い者には少々退屈だった。

また、歴史小説になっても変わらぬ、浅田次郎節も魅力である。時代に翻弄されながらも男の友情や自分の信条は絶対に貫く、という熱い登場人物は、まさに浅田次郎と歴史小説の組み合わせがマッチしていたために生まれたいえると思う。

どうもまとめきれなかった感がありますが(あらすじ書いてる時点で力尽きた)、とにかく読み出すと止まらなくなる傑作であるということを書きたかったのです。以上。


・・・ところで、文庫版1~4巻の帯に書かれた言葉が格好良かったのでご紹介。
1巻・・・極貧の少年に与えられた途方もない予言 そこに「希望」が生まれた
2巻・・・若きエリートが志す新しい時代 その前に「試練」が立ちはだかる
3巻・・・慈悲深き女帝が護る旧世の栄華 憂国の「熱情」は奔流となってほとばしる
4巻・・・運命に立ち向かい生きる道を切り拓くすべての夢見る人に捧げる「賛歌」