浅田次郎/姫椿 | 海辺の読書記

浅田次郎/姫椿

浅田 次郎
姫椿
飼い猫が死んでしまったOL、経営に行き詰まり、死に場所を探す社長、妻に先立たれた大学教授・・・。
心にに傷を持ちながらも、変わらぬ日常を過ごしている主人公達に、小さな幸福が訪れる短篇集。

僕の中には、勝手に「『天切り松』や『プリズンホテル』など、痛快な任侠の物語を書く浅田次郎」という位置づけのようなものがあった。
その位置づけに反して、この本は浅田次郎にしては「地味な」短篇集だと思うのだが、読み終えた後に感じた温かさは、浅田次郎作品に共通するものだと感じた。

表題作の「姫椿」は、経営に行き詰まり、死に場所を探している社長が、偶然、若い頃妻と来ていた銭湯「椿湯」を見つけて・・・という話。
日常の中のちょっとした偶然が、凍てついたひとの心を癒す、というテーマは(ほぼ)全編に一貫していて、温かい気持ちになれる短篇集に仕上がっている。